今回は、伊豆市在住の南馬 久志さんにお話を伺いました。
■ プロフィール
南馬 久志 (なんば ひさし) さん
かぜつち模様染工舎 代表
神戸西区出身。 「かぜつち」は漢字で書くと「風土(ふうど)」。 風土とはその土地の気候・地質・景観などの環境のことです。 私たちは伊豆という土地に根を張り土に触れ「染」を生業とし、 この土地でものづくりをしていきます。
すごい行動力ですね、森本さんの印象はいかがでしたか?
森本さんとは、ただの世間話をして過ごしました。なにか格の違う人というよりは、地球に住んでいる仲間として扱ってくれている感じがしました。
そして、その村ではクメール絹絣によって生産から生活まで、すべてが完結いているという事に感動しました。
材料として使われているゴールデンシルクをとるための蚕やその餌になる桑の葉も育て、家畜のふんを燃料にし、そこで取れた植物を使い染め、染織を作ることにより生活が成り立っていました。
みんなが得意不得意を分け合い、若い人から高齢の人、子供たちまでもが協力し合って、生活をしていました。
電気も通っていないため、星空がとてもきれいで印象に残っています。
産効率の追求や品質の安定ももちろん必要な事ですが、こんな世界があるのかと衝撃を受けました。
そして、帰国後、街の中でモノづくりをしていて違和感を感じ、水が綺麗な場所でモノづくりがしたいと強く考えるようになりました。
そして、思いを形にするために、会社をやめ、モノづくりをする決意をしました。一応、生計が建てられるように、職業訓練校でプログラミングを習得し、伊豆へ移住しました。
伊豆を選んだ理由は何ですか?また、すぐに現在の事業をおこなったんですか
伊豆を選んだきっかけは、高校の同級生だった写真家の西野壮平君が、2015年に戸田にアトリエを構える計画をしていたんです。その手伝いをし、伊豆を訪れたことがきっかけでした。
移住した当初は、プログラミングの仕事をしながら、どんな染めをしようか悩んでいました。ハイドロサルファイトナトリウムや水酸化ナトリウムを使ってインド藍の化学建てを行なっていましたが、違和感を覚えていました。2020年6月頃からプログラムの仕事は辞めて今は藍染一本です。
今までの人生を振り返り、古代染めとの出会いや森本さんとの出会いなどを思い出しました。そして、土にかえり人の肌に優しいものを作りたいと考えました。
そんな折に、佐野市にある紺邑(こんゆう)という工房で、大川さんから正藍染の基礎を学べる機会がありました。移住先の友人に自分の代わりに話を聞いてきてほしいと頼まれ、僕は講習会に参加しましたがそれを教える事はできませんでした。
そこでは、僕が今まで知っていた藍染とは異なる技術と心を学びました。
現在では、丁稚奉公は労働基準法に抵触するとされていますが、僕は大川さんの元で、8日間、弟子として学ばせてもらいました。この師弟関係であるからこそ技術や心を承継していただけると思っていますので、弟子の僕からそれを教えることはできないと思ったんです。
そして、今までの経験と僕のしたかった事、様々な思いが形になり、インド藍の化学建ては一切辞めて、現在行っている正藍染の修行がはじまり1年経ちます。
大川さんは、「自然」や「天然」という言葉はそもそも二元論的な西洋の発想で、日本人の自然観を表した事ではないと教えてくれました。
以前は、人と自然界と別々に考えていましたが、そもそも、自然界のなかに人があるもので、そこから一体化しているのが当たり前だと考えるようになりました。
自然はいいと言いながらも、別物として扱っていたんです。移住前に行なった「自然と人のテキスタイル展」は二元論的な捉え方をしていました。森本さんの伝統の森で感じた事、そして大川さんが言葉にして教えてくださった事。今まで簡単に扱ってたんだと気づかされ反省して、丁寧に扱うように心がけていますがまだまだです。
森本 喜久男(もりもと きくお)
IKTT(Institute for Khmer Traditional Textiles ;クメール伝統織物研究所)創立者。1948年生まれ。
主な著書
1.『森の知恵 The Wisdom from the forest』IKTT, 2011 ※クメール語版
2.「豊かな自然と歴史がカンボジアの染め織りを支えてきた」〔『をちこち』30号, 2009〕
3.『カンボジア絹絣の世界―アンコールの森によみがえる村』NHK出版, 2008
4.『Bayon Moon – Reviving Cambodia’s Textile Traditions』IKTT, 2008 ※英語版
5.「次代につなぐ、営みとしての染めと織り―伝統の知恵を育む森の再生」〔『季刊 民族学』112号, 2005〕
6.『メコンにまかせ―東北タイ・カンボジアの村から』第一書林, 1998〕
現在の事業についても教えていただけますか?
日本古来から綿々と受け継がれてきた正藍染は特徴として抗菌・防虫遠赤外線等の効果が挙げられ、また色落ちや色移りがしません。私たちは信頼できる藍師から蒅を購入して、伊豆の木と温泉水で藍染めを行い、排水は土に還しています。正藍染に出会う事でこの土地に根付いたものづくりがはじまりました。
パタンナーや縫製ができる人を集めて、製品から作り、染をする事も多くなってきました。持ち込みの製品を染めることも行っていますが、自分たちの能力以上のことはしません。