吾輩は犬である。
名前はもうある。
はちという。
八月生まれだから、はち、である。
吾輩の祖先はスコットランドの貴族、ダドリー・マージョリーバンクス卿の犬なのである。
それなりに高貴なはずなのに、はち、なのである。
せめてオーガストくらいにしてほしかったと思っている。
ついでに申し上げておくと、このマージョリーバンクス伯爵は、後のトウィードマス「男爵」である。
吾輩の家柄に関わる話なので、そこは正確にしておきたい。

時々、由来を「渋谷のはち公先輩から頂いたのでは」と聞かれることがある。
違う。何度も言うが、八月生まれだからはちなのである。
ちょっと脱線するが、はち公先輩についている、「公」。
これは公爵的な高貴な意味を持つ「公」なのであろうか。
ならば吾輩もいずれははち公になりたいものである。
男爵の犬から、公爵へ。出世である。
自己紹介はこれくらいにして、本日は「【犬連れ登山】愛犬と登る伊豆の山・達磨山」についてレポートしたいと思う。
飼い主がぐうたらでなかなか記事を書かないものだから、吾輩がこうやってAIなどを使って代わりに書いている次第である。
Contents
朝四時に突然
ある土曜日の朝、四時に主が吾輩を起こした。
いつもの散歩バッグではなく、リュックサックに荷物を詰めている。
どうやら今日も登山に行くようだ。
吾輩は時々、主の除脂肪に付き合っている。
主はバズーカ岡田氏のファンで、岡田氏が「登山は除脂肪によい」と言ってからというもの、月に一度くらいは吾輩を連れて山に登るようになった。
いつも登るのは金冠山である。
今日は達磨山へ登るらしい。達磨山は初めてだ。
金冠山に行くたび、向こうに見えるあの山が気になっていた。
<本日の持ちもの>
水(人間の分と、吾輩の分)
折りたたみの犬用ボウル
タオル
ゴミ袋(吾輩の落としものを持ち帰るためのもの)
おやつ
そして、おやつである。
今日は達磨山に登るのだ。
標高982メートルである。
ちょっとやそっとのおやつでは困る。
982メートルには、982メートルにふさわしいおやつというものがあるだろう。
主はわかっている。
鹿肉ジャーキーである。
頂上で食べるスペシャルなやつだ。
これがあるから吾輩は登るのである。
主に神アプリ「ヤマップ」を授ける
主は救いがたい方向音痴である。
何度か達磨山へは登ったことがあるらしいが、吾輩はどうしても主が信用ならない。
だから、いいアプリを教えてやった。
ヤマップである。
ヤマップは、登山地図のアプリで、地図をあらかじめダウンロードしておけば、電波の届かない山の中でもGPSで自分の居場所がわかる。
予定のルートから外れれば、外れたことも教えてくれる。

念のため言っておくが、アプリを入れれば道に迷わない、という話ではない。
地図を読み解く能力があるかどうかは、また別の問題だからである。
このあと、その実例をお見せしよう。
3つの駐車場に人間は迷う
達磨山に登るには、駐車場が三つある。
だるま山高原レストハウス、戸田峠、そしてあせびヶ原駐車場である。
人間はここで悩む。
悩む必要がどこにあるのか、吾輩には理解できない。
レストハウスに停めれば、金冠山を経由して長く歩ける。
戸田峠に停めれば達磨山だけで済む。あせびヶ原に停めれば、登山口はもう目の前である。
長く歩ける、というのは、正義である。
よって答えは出ている。レストハウスである。議論の余地はない。
ちなみにレストハウスから歩き出すと、途中で戸田峠の駐車場の脇を通る。
ここで人間はしばしば「こっちに停めればよかった」と言う。
何を言っているのか。今、良い方を選んだところではないか。
なお、トイレがあるのはレストハウスだけである。
人間はこの点を軽く見がちであるが、吾輩に言わせれば、これはかなり重大な情報である。
吾輩は道端で済ませられるが、人間はそうもいかぬらしい。不便な生きものである。
金冠山をスルー
天気は曇り。少し霧がかかっていて涼しい。犬にはありがたい。
物足りないと感じる人間もいるようだが、毛皮を着て歩いてみろと言いたい。
レストハウスから歩き出すと、しばらくは芝生の道である。
ゆるやかなアップダウンが続く。散歩コースのようなものだ。吾輩の得意分野である。
まだ六時にもなっていないからか、すれ違う人もいない。

いつもの金冠山へ登るルートには行かず、達磨山の方向へ。
「帰りに寄ろうね」と主は言った。
この言葉が最終的にどうなったかは、後編でご報告する。
しばらく行くと、戸田峠の駐車場に出くわす。

犬の敷いたレールの正しさ
この戸田峠の駐車場は、大小いくつもの道の分岐点となっている。
吾輩は嫌な予感がした。この幾多の分岐から、主が正しい道を選べるはずがないのだ。
吾輩は主に、駐車場の横にある入り口の看板を見ろと目くばせした。
主は必死にヤマップを見ている。
そして、なんとも空しいことに、やはり彼女は誤った道を進み始めたのである。
吾輩が一所懸命に達磨山の登山口の方向へ引っ張ってやっても、彼女は吾輩を誤った道へ引きずり込んでいくのである。
犬の敷いたレールに乗ってたまるか、という反抗的な態度なのであろうか。
理解しかねる。
仕方なく、誤った道を数分歩いた頃だろうか。
やっと主は自らの過ちに気がついた。
「ヤマップから外れてるよ、このままじゃ海についちゃう」
坂道を10分、下りに下りきったところである。
引き返すとなると、上り坂を上りに上らなければならない。
ちなみに、あのまま下り続けていたら、その先に瞽女(ごぜ)展望地というところがあったらしい。
三味線を弾き語る盲目の女旅芸人が、その昔この峠道で大雪に遭って亡くなり、その冥福を祈って建てられた観音像が、駿河湾を見下ろして立っているそうだ。
拝むと芸事が上達すると伝えられているという。
芸事。
吾輩は「お手」と「待て」ができる。
上達させたい気持ちがないと言えば、嘘になる。
霧香峠にて
引き返す途中に、霧香峠という展望ポイントがあった。
霧で何も見えない。
薄衣や 鼻先くすぐる 波の音
薄衣のような霧で戸田の海は見えないが、鼻の良い吾輩には潮風の香りとともに、波音が聞こえてくるようだ、という句である。
一句詠み終えたところで、主が興奮して言った。
「霧香峠(きりかおるとうげ)! まさに霧が香っているような峠だね!」
まったく風情も霧も塵もないやつだ。やれやれ。
そして読み方も間違っている。
霧香峠は戸田峠の愛称であって、読みは「むこうとうげ」と読むのである。
ついでに言えば「戸田峠」も「とだ」と読まれがちだが、「へだ」と読む。
主は吾輩を看板の前に座らせ、写真を撮って喜んでいる。
こちらの身にもなってほしい。今、いい一句を詠んだところなのだ。

ここまでで、まだ登山口にすら到着していない。
飼い主が道に迷ったからである。吾輩のせいではない。
次回、吾輩はついに達磨山の頂に立つ。標高982メートル。
そして、その頂上で、鹿肉ジャーキーをめぐる悲劇が起きる。
次回をおたのしみに!
ここからは飼い主より
はちの言うことは半分ほど信用ならないので、犬連れで達磨山に行かれる方のために、事実関係を補足しておきます。
伊豆で愛犬と登れる山を調べると、出てくるのはたいてい大室山、小室山、十国峠あたりです。
どれもリフトかケーブルカーがあって、山頂の遊歩道を歩く形。
登山というより、絶景の散歩に近い印象です。
達磨山は違います。
標高981.8m、往復3時間以上、ひたすら木の階段です。
リフトはありません。愛犬と本気で山に登りたい方には、伊豆では数少ない選択肢だと思います。
ただし、それなりの準備が要ります。
犬連れ達磨山 早わかり
山名:達磨山(だるまやま)/静岡県伊豆市・沼津市
標高:981.8m
今回の距離・所要:9.3km/3時間11分(道に迷った往復を含む)※ヤマップの記録より
同行犬:ゴールデンレトリバー、1歳11か月、大型犬
駐車場:3ヶ所(だるま山高原レストハウス/戸田峠/あせびヶ原)
トイレ:だるま山高原レストハウスのみ
リード:必須(車道を歩く区間あり)
木陰:ほぼなし(熊笹などの低木中心)
水場:なし。犬の水は持参。
達磨山は犬と登れる?コースと所要時間
今回歩いたのは、
だるま山高原レストハウス発 → 金冠山はスルー → 戸田峠 →(道に迷って往復)→ 小達磨山(890m)→ 西伊豆スカイラインを少し歩く → 達磨山(981.8m)→ 往路を戻る、というコースです。
5:29発 → 7:21 達磨山山頂 → 8:40 レストハウス着。
所要3時間11分、9.3km。
登山道は木の階段や芝生などでよく整備されていて、鎖場や岩場はありません。
大型犬は問題なく歩けました。(登山者とすれ違う時はリードを短く持って道の端に寄りました)
中型犬・小型犬で歩けるかどうかは、正直わかりません。その子の体力にもよるかと思います。
駐車場とトイレはどこ?
3ヶ所あります。だるま山高原レストハウス、戸田峠、あせびヶ原駐車場。
歩く距離を短くしたいなら戸田峠かあせびヶ原、金冠山も含めてしっかり歩きたいならレストハウスです。
ただし、トイレがあるのはだるま山高原レストハウスだけです。
ここは本当にはちの言うとおりでした。
犬連れだと出発前に済ませておきたいことがいろいろあるので、初めての方はレストハウス発をおすすめします。
売店と展望デッキもあります。
夏に犬を連れて行っても大丈夫? 早朝一択です
達磨山は全山が熊笹に覆われていて、稜線に出ると木陰がほとんどありません。日差しを避ける場所がないのです。
今回は曇りと霧だったから涼しく歩けましたが、晴れた日の日中は、木の階段も西伊豆スカイラインの路面もかなり熱を持ちます。
肉球のやけどと熱中症のリスクがあるので、夏場は早朝に登り切ってしまうのが安全だと思います。
目安として、地面に手の甲を数秒つけてみて、熱くて我慢できないようなら、犬も歩けません。
もうひとつ。山中に水場はありません。犬の分の水と、折りたためる器を必ず持って行ってください。
おまけの訂正
本文中ではちが『「お手」と「待て」ができる』と発言していましたが、「待て」はほとんどできません。
それでは後半もお楽しみください。