「一緒に行こう、旅に出よう」
私が好きな作家さんの一人、原田マハさんの作品の中に出てくる言葉だ。
「さいはての彼女」という短編集の中の「旅をあきらめた友と、その母への手紙」にその言葉はある。
主人公は、都内の大手広告代理店でバリバリ勤めていた30代女性「ハグ」。
彼氏と別れ、仕事もうまくいかなくなり、人間関係に疲れて退職。
そんなハグを親友の「ナガラ」が旅に誘ってくれた。
「一緒に行こう、旅に出よう」と。
二人は湯河原、箱根、盛岡、弘前、萩、津和野・・・。
季節を変えて、いろいろな所を訪れた。
旅は、鬱屈する日常から解放してくれた。
そんな二人に予期しないことが起こる。
母親の看病が必要になり、ナガラが旅に行けなくなったのだ。
主人公「ハグ」は初めての一人旅で「修善寺」へ。
新幹線で三島駅まで来て、伊豆箱根鉄道に乗り換えて30分。
終点の修善寺駅で降りて、タクシーに乗り込み山深い宿へ。
美しい紅葉の時期であった。
~小説より~
・広々とした部屋の突き当りがまるごと窓であり、その窓いっぱいに悠々と描かれた絵の具のまだ乾かない絵画のような風景が広がっている
・森のところどころに紅葉を点らせて、黄、赤茶、オレンジ、赤、真紅と、鮮やかな呼吸をしているかのごとくである
・(夕飯は)駿河湾・メヒカリの燻製、清水・本鮪のタルタル、メインは静岡和牛ロース肉のグリエ・山葵添え
・完璧な静寂は豊かな眠りをもたらしてくれた
・すがすがしい森の匂いと冷たい山の空気が流れ込み、部屋の隅々までを清らかに満たす
主人公の女性「ハグ」はこんな時間を過ごし、元気になっていく
「東京でバリバリ働き、時間に追われて過ごしていたけれど
旅先ではびっくりするほど穏やかな時間が流れている
突っ走るのもいいけど、のんびり走ったっていいんだ」
「ハグ」は、きっとそんなことを思ったんだろう。
肩の力が抜け、清々しい気持ちになれる小説であった。
そして、私も「修善寺」に旅に出たくなった。