今回は、飴元 菊水の荻田 真理子 (おぎた まりこ) さんにお話を伺いました。
西伊豆で手作りの飴を製造・販売する「飴元 菊水」さん。昔懐かしいホッとする佇まいの店舗にずらりとたくさんの飴が並び、まるで、たまて箱のよう。
お店の代表の荻田真理子さんにインタビューして、こだわりの飴に込めた想いや、商品開発の裏側、新たな取組などのお話を伺いました。
創業80年の老舗の飴屋
お店を開いたきっかけを教えてください
父親の代から創業80年。うちは兄弟が多く、父親はお菓子屋さんに奉公に出されたようです。戦争中には上官からよく「荻田、甘いまんじゅうを作ってくれ」と言われ、材料の調達に苦労したと聞きました。
父親は、和洋菓子の引き出物や、餅、赤飯、飴など、幅広い製菓職人で、90歳までほぼ現役。誠実で腕も良くお客様に喜ばれていました。「疲れは仕事で治す」なんてよく言っていました。
私は、ここ西伊豆で育ち、地元の学校を出まして、小さな頃から憧れであった百貨店で少しの間、働いておりましたが、いろいろな状況の流れで家業を継ぐことになったのです。父親のしっかりした配合帳もあり、見よう見まねでお菓子を作れる設備もありましたが、手作りの飴の需要が増えてきましたので、今は飴に特化しております。
取扱商品を教えてください
手作りの飴を数十種類販売しているほか老舗の旅館、ホテルさんのオリジナルの飴を手掛け、夏には「飴やのかき氷」も大好評です。「飴やのかき氷」は黒蜜、白蜜のほか、最盛期には日により異なりますが、自家製のいちご、梅、キウイ、きんかん、ブルーベリー、イチジク、シソなどの種類があります。
どんな想いで、日々、お仕事をされているのでしょうか
毎日、仕事にかかる前には、白衣姿に気合の入った前掛けの結び目の父の姿。「家内安全。今日も菊水のために働かせてください」と早朝、神棚に手を合わせる母の姿。そして、さわやかに自信に満ちた出で立ちの兄の姿を胸に、いつも、「よし!」と思って職場に入ります。
私の目からですが、日本一の飴職人と太鼓判が押せるパートナーや、「また手がかかる飴ばかり考案して」とため息をつきながら協力を惜しまないパートさんたちに日々感謝しています。
菊水の飴は、やっぱり手作りの飴
飴のこだわりを教えてください
飴のこだわりは、全工程が手作り。「一粒一角一片」まで心を込めて作るということです。
実は、手作りで作るのは効率も悪く大変なので、以前、「機械化した飴に切り替えてみないか」というお話しがあったんです。ところが製造してみたら、手作りの飴と機械化の飴とは全然違う。これは「菊水の飴」ではないなと思いました。
でも、機械化の飴が良くないということではないですよ。「菊水の飴はやっぱり手作りの飴」ということなんです。その時に改めて手作りでやっていこうと決めました。
飴はどのように作っているのでしょうか
原材料はグラニュー糖と水あめが少し。飴の種類によっては黒糖を使ったり、中双糖、キビ糖にしたり。なるべく天然素材を心がけています。
それを2つのガスコンロで煮詰めた後、適温に冷まし、引っ張って伸ばして、そのあとカットします。
手作りだと、苦労されることも多いのでは
苦労している点は、とにかく炭鉱仕事のように暑いです。温度が155度ぐらいの飴を適温に冷まし、徐々に引っ張ったりするので、ものすごく重労働。私のパートナーが主にそれをやって、ここに勤務する数人のおばちゃんたちがすごいスピードでカットして袋詰めまでやるんです。
製品をめぐり、パートナーと意見の合わない場面もたびたびですが、『お客様や私の発想をすぐに形にしてくれるのは世界でこの人しかいないな』と頭を冷やします。
美容院から生まれた商品「あまてる」
地元の果物を使った商品があると聞いたのですが
ミカンなどを輪切りにして乾燥させたものに飴をかけた商品です。目新しく、かわいいので目を引きます。
果物に飴とは面白い発想ですね!
ある日、美容院に行ったんですよね。そんな時でもないと、座って雑誌をゆっくり見る時間もとれなくて。ペラペラとページをめくってみたら、ドライフルーツの写真があったんです。柿とかイチゴとかミカンがあって、それを見た時に「きれいだなー」と衝撃を受けて、気持ちを奪われました。
その時に、「待てよ、自分の家の飴をこれに乗せればどうかな」と思ったんです。
それで、うちに帰ってきてすぐに家庭用の乾燥機を取り寄せ、贈り物のミカンを薄切りにして、ドライにしたものに飴を乗せたらすぐ売れちゃったんです。10袋、20袋ぐらい作っても、すぐ売れちゃう。その機械が1万円ぐらいの機械だったんですけど、その後5台も6台も増やしていったんです。
近くの農業高校に勤めております次男が帰ってきまして、「お母さん、そんな動きをしていたら体を悪くしちゃうぞ。僕の学校には乾燥機があるからそれを買ったら」って。「そんな乾燥機なんか買えないよ」と言いましたら、息子が乾燥機を買ってくれたんです。嬉しかったですね。
その後の売れ行きはどうなりましたか
乾燥機を1台設置したら、次の年に2台目、また次の年に3台目を買いました。それぐらい忙しくなったんです。イチゴは南伊豆のハウス農家さんから3トンも仕入れています。作業場がイチゴだらけに(笑)。そのイチゴをスライサーで切って、3台の乾燥機が24時間フル回転です。乾燥したイチゴには、果汁とはちみつの飴をかけています。パートさんたちとにぎやかに飴を作るのも楽しいです。
商品名の「あまてる」はどうやって考えたのでしょうか
最初、名前を何にしようかなーと思ったんです。島根にいる長男が美大を出ていて、「お母さんがこういう飴を作ったんだけど、名前を考えてくれない?」と電話をかけました。そしたら、「お母さん、写真送ってみて」と言うので送ってみたら、「きれいだじゃ。お母さん、みかんは正月のお供えの上に飾ったり縁起ものだよ。みかんは太陽の象徴で太陽神はあまてらすとか…。詳しく話しても込み入って分からないだろうから、あまてるはどう?」って。
それで「あまてる」に決めました。
雑誌でドライフルーツをたまたま見てからの荻田さんの商品開発の行動力が素晴らしいですね。息子さんが乾燥機を買ってくれたり、商品名を考えてくれたりなども、とても心温まるお話でした。
(後編では、お客様からの声や、伝統のお菓子を復活させた新たな取組などのお話をご紹介します)
■ 会社・店舗案内
飴元 菊水
創業80年の老舗の飴屋。手作りの飴を一粒一角一片、心を込めて作っています。
〒410-3514 静岡県賀茂郡西伊豆町仁科802-4
0558-52-0044