前回のハイキングで、山岳ガイドさんから
「5月の下旬から6月の上旬に天城山のシャクナゲが咲きますよ。群生地になっていて、シャクナゲの花のトンネルになっているところがあります」
との情報あり。
早速、5月の最後の日曜日に天城山へ行ってきました。
そもそも天城山とは
天城山は、東西に44キロ、南北に24キロで、なんと伊豆半島の3分の1!を占める休火山の総称であります。なんと、「天城山」という山は存在しないのです。
静岡県東部、伊豆地区にお住いの人ならご存じ、天気予報などで報道される「天城山の降水量は…」の天城山は存在しなかったのです。どこで測っているのでしょう。
大雨が降ったり、台風が来たりすると気にする降水量ですが、いつも気になっていたのは、天城山の降水量の多さ。常に他の地域をダントツに引き離しています。
私が仕事で天城越えをする時、天城峠だけ雨が降っていることもしばしば。
実体を持たない天城山、それなのに降水量の計測値になっている天城山、そして晴れの日でもそこだけは雨、という謎現象を引き起こす天城山。
天城山という山はないんですよ、という突然のミステリーから始まる天城山の登山。
我々はどこに登ろうとしているのでしょうか。
天城九木 神9
その前に、天城山を構成する木々をご紹介しておきます。
伊豆半島はもともと南にあった南国の島で、フィリピン海プレートに乗って少しずつ北上。
今から500万年前、神奈川県の丹沢辺りで日本列島にぶつかり、伊豆半島になりました。
この衝突で伊豆半島にジオパークが生まれ、富士山が生まれたとか。
そんな南国由来のパワフルな伊豆半島の3分の1を占める天城山に生息する見事な木々は主に9種類あり、「天城九木」と呼ばれているそうなのです。
神9を紹介すると、①松、②杉、③桧、④樅、⑤欅、⑥樫、⑦栂、⑧楠、⑨榧、です。⑦番以降は読み仮名もどんな木なのかも想像つきません。
神9の他には研究生として、個性的な木もたくさんあります。
ブナ、ヒメシャラ、イヌシデ、アセビ、マメザクラ、カエデ類などが神9と共に見事な自然林を作り出します。
そもそも「天城」の名前は、山中に生えている甘木(アマギアマチャ)がたくさん生息しているからとも言われているそう。
アマギアマチャはお茶の一種。ノンシュガーなのに甘いという不思議なお茶で、天城の名産物です。ただ、アマギアマチャはお茶の種類ではなく、ユキノシタ科アジサイ属の植物なのだそう。
天城山が一番華やかになるのは初夏。トウゴクミツバツツジ、ドウダンツツジ、アマギシャクナゲが山を彩ります。
早速、そんな華やかな初夏のお花をのぞきに天城山へ!今回も友人の山岳ガイドさんも一緒です!心強い!
万二郎と万三郎
天城山の構成メンバーとして、万二郎と万三郎がいます。どちらも山です。
天城山の最高峰は万三郎で1405.3m、次いで万二郎1299m。
シャクナゲハイクは、四辻~万二郎~石楠立(シャクナゲの群生地)~万三郎~四辻へ戻ってくる周遊コースです。
杉、桧、ブナ、ヒメシャラなど樹林帯が続きます。
コースの詳細は伊豆市情報観光サイトで!
https://kanko.city.izu.shizuoka.jp/form1.html?pid=4498
台風や強風などによる倒木やガレた沢などなかなか初心者には道が見えずらいですが、所々に道しるべがあります。
登山ルートでは蛍光ピンクのリボンが目印になっていることが多いそうです。
天城山では縦走ルートもあり、「天城山 Mt.Amagi」の黄色い旗や青と黄色の縦走路標識と呼ばれるプレートが目印になっています。ウクライナカラーです。
周回コースの標準タイムは4時間35分。さすが静岡県随一の雨量を誇る天城山。木々もうっそうとしています。
前回の達磨山とは打って変わり、森林浴をしながらの登山です。木々の間から景色が楽しめました。
鳴り響く轟音
万二郎を歩いていると、ごーーーん、どーーーん、という轟音が聞こえてきます。
海の上の雷が響いている?と思いきや、御殿場の演習場の砲撃の音なのだそう。
伊豆半島に暮らしていますが、御殿場演習場の音が気になったことはありません。
自然の中にいることや、高い山にいることなど、様々な要因で体感できるんですね。
天城山に行ってみようと思ったみなさん、耳を澄まさなくてもごーーーん、どーーーん、と聞こえてきます。
その音は自衛隊の訓練の音ですので、ご心配なさらず。
温暖化の影響はここまで
万二郎と万三郎の間に石楠立(はなだて)と呼ばれるシャクナゲの群生地に入ります。
あれ…、あれ…、シャクナゲ…、咲いていません。
花も落ちていません。ざわ…、ざわ…。
アマギシャクナゲの看板が出ています。
「5月中旬~6月上旬に美しい薄桃色の花が一面に咲きます。」
今は、5月下旬なので満開なはず…、見渡してもシャクナゲは一輪も咲いていません。
花が落ちた形跡もないことから、花はずいぶん前に終わってしまったことがわかります。
温暖化の影響なのでしょう。花盛りは2週間ほど前に終わってしまったようです。
地球の温度が変われば、看板も変えなければなりません。地球温暖化とはなんとも金がかかり、面倒なものです。
求めたときにそれはもうない、という教訓
随分立派なカメラを首にかけた人がたくさん歩いています。
みなさん、女王を収めようと張り切って登ってきたのでしょう。
誰に怒ることもできません。ぐっと自分自身を納めるしかないのです。
万三郎で昼休憩をします。万三郎は日本百名山のひとつです。
初百名山登頂です。感慨深いがしかし、その間も楽しみにしていた女王シャクナゲのことが頭から離れません。
私は旧天城湯ヶ島町出身なのですが、その時の町の花がシャクナゲだったような記憶があります。
小学校の頃、昭和の森という自然公園があり、よくそこへ行っていたような気もしてきました。
そして、そこにはシャクナゲがたくさん植えられていて、祖母と見に行ったような。
子供の頃の私はシャクナゲが天城山の女王であることも知らず、ましてや花の愛で方も知らず、自然公園のシャクナゲには見向きもせず、巨大滑り台に夢中であったと思います。
30年近くたち、因果応報でしょうか。
3時間も歩いて会いに来たのに。花の愛で方を心得るおばさんになったのに。
求めているときに女王はいないのです。女王に限らず、チャンスも親も富士山も、目の前にいるときに、掴まえたり、親孝行したり、写真を撮ったりしておかなければならないのです。これは人生の教訓と言えるでしょう。
奇跡の女王謁見
登山を再開すると、先方からおばさま3名がはしゃいで歩いてきます。
山岳ガイドさんが、
「シャクナゲありました?」
と聞くと、
「ありましたよ!満開が1本!この先ですよ」
とのこと。
山岳ガイドさん、花好きおばさんを見分ける力に長けています。
おばさまたちの言う通り、いらっしゃいました。天城山の女王。
その名の通り、女王らしい出で立ちです。ふさふさの薄桃色の大輪の花。
大輪の花がこれまた5、6個集まり、さらに大きな花の玉を作り上げています。
そこだけぱっと明るくなっているのですぐに分かりました。
1本でこんなに大迫力なのに、あのシャクナゲのトンネルが満開だったらどんなにすばらしいでしょう…!
これは絶対に来年は見逃せません。
シャクナゲのあまりの美しさにその場を離れることができません。私も立派な花好きおばさんになったものです。
ここで一句
石楠立(はなだて)の 薄紅しみる シャクナゲや
年を重ねてシャクナゲの美しさを知るに至りました。シャクナゲが町の花として推されていた理由が今になって理解できます。
天城グリーンガーデン
昭和の森会館に隣接された天城グリーンガーデンは、山の斜面に遊歩道が整備されていて、アマギシャクナゲや西洋シャクナゲ500種類、約13,000本が楽しめるようです。
登山までは、という方は天城グリーンガーデンがよいかもしれません。
私も来年は天城グリーンガーデンへ行ってみたいと思います。
苔という楽しみ方も
万三郎を過ぎ、四辻までは結構ハードな山道だった印象です。
大きな岩を美しい苔が覆い、抹茶チョコレートのような風景が楽しめます。
雨量の多い天城山は苔を楽しむ山でもあるのです。
おわりに
今回は、天城山の中でも四辻~万二郎~万三郎をめぐる周遊コースを紹介しました。
伊豆半島の山々もそれぞれ見せる顔が違い、興味深かったです。
特に、天城山という山はない、というのが新たな発見でした。(そこか?)
天城山の豆知識、明日、誰かに話してみてくださいね。