今回は、ねの湯 対山荘の庄司 美貴 (しょうじ みき) さんにお話を伺いました。
■ プロフィール
庄司 美貴 (しょうじ みき) さん
伊豆市修善寺出身。デザイナーズ和モダン旅館「ねの湯 対山荘」の若女将。大学在学中から現社長の母親と二人三脚で宿の経営を支える。 修善寺温泉街の活性化に取り組むコトコト企画室社員。
温泉街にたたずむノスタルジックな宿でお話を聞かせていただきました。
『癒しの場』を提供したい
落ち着いた雰囲気で、女性のお客さんから人気がありそうな感じですね。
そうですね。対山荘を創業したのは祖父ですが、祖父が亡くなった後、祖母、母が経営者となり、女性が仕切る経営が続いています。結果的に女性目線の配慮はあったと思いますが、女性向けのコンテンツのほうが作りやすい面もありますね。
庄司さんが女将の3代目なんですね。対山荘のこだわりを教えてください。
「アートを観るように滞在を楽んでもらう」ことをコンセプトにしています。以前、調べたときにストレス緩和の最終手段が「旅行」ということを知りました。そんな方々に「癒しの場を提供したい」と思い、10年前から本物にこだわった「宿の世界観」を大切にしています。
例えば、無料サービスで提供しているマニュキアも日本最古の絵の具屋さんが手掛けた商品を置いています。普通であれば、シンナーの香りが残るんですが、貝殻を素材にした香りのないものを使っています。当初は、現経営者の女将から「持って帰られてしまうかも」という懸念があり、導入できませんでした。それでも、本物しか受け入れられない時代に「普通に安いものを提供したくない」という思いが強くありました。
私のなかに、できるならば「時代を引っ張ることをやりたい」と思いがあります。ただ、早すぎると受け入れられないので、絶妙なラインを狙う(笑)。これはトライ&エラーで繰り返しやっていくしかないですね。
『対山荘の世界観』をつくる
これまでにどのようなチャレンジをされてきたんですか?
1.古いものに価値を残す
庄司さん 10年ぐらい前に宿の大規模なリニューアルを行いましたが、こだわったのは「古いもの」をうまく使うこと。創業当時の資材をそのまま使ってくれる建築家を探しました。
普通であれば建替えたほうが、建物の持ちもよくなります。
それでも、修善寺という歴史あるまちの宿として、後世に残していくことも大切だという思いがありました。旅行者や海外の人が見たときに「風情がない」、「心に残らない」と思われてはもったいない。
価値あるものを残すため、あえて「建替えない」という選択をし、旧旅館の資材をできるだけ活用して、新しい旅館に生まれ変わらせました。
2.細部にまでこだわる
宿の世界観を大切にするために、お客さんの目に見えるものも、見えないものも細部までこだわりたいと思っています。
お風呂で言えば「f分の1のゆらぎ」の仕掛けです。水面に水滴を垂らすと波紋のように広がっていくと思いますが、人が自然とリラックスできるゆらぎがあります。人間にとって、キャンドルの炎や波の音と同じように、このf分の1のゆらぎを感知すると、心地よくなると言われています。
部屋で提供しているキャンドルもこだわりの一つですね。
安全面を考えれば電気のキャンドルがいいかもしれません。それでも、本物を求めるのであれば、やはり炎のあるリアルなキャンドルが一番です。
部屋にあるちょっとしたものでも、簡単に買ってきたものを置くという感じにはしたくないですね。例えば、花瓶に挿す花にしても、近隣の山から採ってきた季節の植物を挿すようにしています。このまつぼっくりも、こんなサイズはなかなか見つからないですよ。気になる人が気づいていただければうれしいですね。
グラス1つにしても「心をこめて選んでいる」と思われるものを提供したい。そんなに高い備品でなくても、温かみのあるものを選ぶとか、より丁寧に選ぶようにしています。どんな備品を買うときでも「私に声かけて。勝手に買わないで」と伝えています(笑)。
3.従業員を甘やかす
これはチャレンジと言えるかわかりませんが「従業員を甘やかすこと」。自分も甘いんですが、経営者の母親もとてもやさしいんです(笑)。
従業員には「嫌いなことや苦手なことはやらなくていい」と伝えています。人には得意・不得意があるので、得意なことをやってもらう。ある人が「できない」ということでも、他の人は「私は大丈夫」ということが多いものです。まあ、なかなか普通の会社にはやりにくいとは思いますが。
それは、従業員とのコミュニケーションがうまくとれているからできることかもしれませんね。
そうですね。私が甘すぎて、従業員が育ってくれているのかも(笑)。ただ、採用面接のときに「和をもてる人かどうか」を見ています。私自身が「身近な人から幸せにしたい」と思っていますので「仲良く働けること」に賛同いただける方に働いてもらっています。
従業員は、長く勤める人も多く、70代や80代の方も多い。勤務のシフトは無理をせず、負荷をかけない工夫をしています。
■ 会社・店舗案内
ねの湯 対山荘
静岡県伊豆市修善寺883