7月に入りました。小夏の候(本格的な夏を前にちょいとした暑さを感じるようになりましたね)、と時候の挨拶をしたいところですが、小夏どころではないですね。
もう大夏です。伊豆の夏も青々と美しさを増して、腕まくりして夏を出迎えている感じがします。
伊豆の海岸線のドライブはそれはそれは絶景が続きまして、すばらしい通勤時間となります。
たびたび車を展望スポットで止めては、
「ああ、きっと毎日海を眺めて暮らした人と、そうでない人の間には決定的な違いがあるのだろう。
それはきっと心の大きさや穏やかさに関係してくるに違いない」
などと謎の思想を展開する始末です。
海の顔
伊豆に住んでいるからといって、海に慣れ親しんでいるというわけではありません。
車で30分も走ればどこかしらの海へ着きますが、それでも海辺で暮らしている人と中伊豆の山中で暮らしている人では、
海が見えてきた時の「あ、海だ!」の声量やテンションに雲泥の差があります。
私は中伊豆育ちなので、「あ、海だ!」の時にはもれなく上気します。
海に新鮮な感動とあこがれを持ち続けている私が海に対して思うことは、海にはいろいろな顔があるということです。
白浜に打ち寄せる海、河口で淡水とぶつかり合う海、荒れている海、穏やかな海、夜の海、朝の海、赤潮の海、夜光虫の海…
数え上げればきりがありません。
その中で今回ご紹介するのは、松崎町の漁港に打ち寄せる海であります。
これもなかなか趣があって、奥深いものです。
カモメの鳴き声、波の音、遠くのラジオから流れる音楽、潮の香り、吹き付ける西風…
そういう中に佇んでいるだけでノスタルジックな気持ちになります。
磯料理 民芸茶房
松崎町の漁港ほど近くに、磯料理 民芸茶房はあります。
近くには温水プールや漁港直売所があります。
一歩中に入ると木をふんだんに使った趣のある内装が広がっています。
大小さまざまな直系の木を切って作られたテーブルがバランスよく配置されています。
直系2メートル以上ありそうな大テーブルには7人組の国際グループが何語か分からない言葉で楽しそうに話しています。
私は直径1メートルほどの木のテーブルに座ります。
メニューを開くと刺身、干物などの定食が並びます。
そんな中、達筆で「さくらそば 松崎名物の桜葉入り ○○と香が良い」と書いてあります。
恥ずかしながら○○の字が読めません。(どなたか教えてください)
○○が何かは食べて感じてみようと思い、さくらそばセットを注文。
食事を待っている間、のどが渇いたので、わき水を飲むことに。
西伊豆の水はおいしいと有名で、中伊豆から汲みに行く人も多いのです。
絶対に間違いはないわき水、本当にクリアな味でおいしかったです。
きびなごの衝撃
席で水を飲んでいると、
「はい、これおまけのきびなごね。頭から全部食べられますよ」とおねえさんがホタテの貝殻にのせた3匹のきびなごをくれました。
ふむふむ、と何気なくそれを口に運ぶと衝撃の旨さ。
「うまさ」というより、「旨さ」という感じです。
香り、塩味、食感、焼き加減、小骨感、すべてが黄金比率。
こんなにおいしい食べ物を食べたのは久々です。
なぜこんなに旨いのか。きびなごをじっくり見て観察します。
ほんのりついた焼き色とふっくらとした身、そしてぽってりとしたみずみずしさ。
丁寧に焼かれた片鱗が確認できます。丁寧に味付けされ、丁寧に干された面影が見え隠れしています。
すばらしい手仕事。感動です。ぜひみなさんにも食べてもらいたい!
さくらそばとわさび
きびなごに感動していると、さくらそばが到着。緑色が鮮やかで涼し気。サクラエビのかき揚げの香ばしい香りが食欲をそそります。
さくらそばは、本当にさくらの葉の香りがします。ほんのり、というより、華やかに香ります。
大げさな桜フラペチーノの桜のようにふんわりと、華やかな香りです。
食感はぷりぷりとしています。普通のそばよりも寒天感というか心太感があります。
寒天感、心太感というのは、透明感や歯ざわりのことです。透明感があって、歯切れがよいのです。色は、緑瑪瑙という感じで透明感があります。食感は、もちっという感じではありません。どちらかというとサクっというかプリっという感じです。(筆舌に尽くし難いので、ご賞味ください)
特徴的なのは、わさびです。ねっとりとしたわさびの中にサクサクしたものが入っています。わさびの漬物なのか、ほんのり甘い味わいがします。
帰り際におねえさんに聞いてみると、すったわさびに小さくて売り物にならないわさびを刻んで練りこんだもの、とのこと。
不思議なことに味付けは一切していないそうです。漬物のような複雑な味わいと甘さは、どうやらその小さなわさびの甘さなのだそう。
小さなわさびは甘みがあるので、刻んで食べても辛みがなく、すったわさびに練りこむことでシャキシャキとした食感を出せるのです。
何だか、この小技にも感動。丁寧で、知恵の詰まった工夫、すばらしいです。
残しておいたきびなごにわさびをのっけて食べるとこちらも絶品。食事を楽しんでいる感じがします。
ちなみに西伊豆のわさびはねっとりしていて辛みが少ないです。不思議。これは研究の余地があります。
お茶
十分に食事を堪能した後、お茶を飲むとこれもまた衝撃のうまさ。
こちらは「うまさ」です。ひらがなの方です。
これはきっとやかんのような大きな急須にきちんと60~70度くらいにしたお湯を注ぎ、十分に茶葉を躍らせたお茶です。
私は家でお茶を嗜んでいるので、この衝撃のうまさはよくわかります。
私では入れられないお茶であることも明白です。なぜならおいしいお茶を入れるには、手間とコツが必要だからです。
一度、農協主催のイベントでお茶の入れ方講座を受講した時に飲んだあの「60~70度」で入れたパターンのうまみの強いお茶。
お湯の温度と入れ方でこんなに味が違うんですね、と感動したその味。
その時の講師のおばちゃんが入れたレベルのお茶の味です。
きびなごの干物に始まり、さくらそば、わさび…、その随所に丁寧な手仕事を感じられるお食事処。
こんなにおいしい食事がつくれたら、人生はどんなに素晴らしいだろう。
毎日海を眺めているとこんなに素晴らしい手仕事が成せるようになるんだな。
手仕事は人を感動させる。手仕事は地球環境を守る。ぜひこの夏は感動をしに松崎町へいらしてください。
「さくらそば 松崎名物の桜葉入り ○○と香が良い」の○○についても教えてください。