今回は、伊藤金属総業の伊藤 徹郎 さんにお話を伺いました。
はじめに
普段あまり意識することはないものの、皆さんの周りにきっとある蝶番(ちょうつがい/ちょうばん)。今回はそんな蝶番をはじめとした金属加工を行う伊藤金属総業さんにお邪魔してきました。修善寺駅からほど近い柏久保に工場を構えており、機構部品の業界では「修善寺で蝶番といえば伊藤さん」という名の通った存在なのだそうです。代表である伊藤徹郎さんと奥様に加え、会長である先代、専務である息子さんにもお話を伺うことができました。【後編】
前編はこちら↓
目指す事業の形
今後を見据えた新しい活動などはありますか?
自分の会社の仕事を本当に強く意識するようになったのはコロナの頃で、ちょうど自分が社長になったタイミングでもあるんです。どこの製造業さんもコロナの影響を大なり小なり受けていて、うちも色んな意味で大きく影響を受けて、ちょっとバランスを崩してしまっていたんです。そんな時に、自分たちの仕事というのは言われたものをただ一生懸命作って納めるってことだけじゃダメだよねってことを、妻と2人でいろいろ話をしたんです。
世の中全体では蝶番のニーズは一定数あるんですけど用途というのは千差万別であって、例えばさっき言ったような情報通信機器みたいな畑もあれば、配電盤みたいなちょっと大きめのものもあったりします。その中でどこかが悪くてもどこかが良いといった感じでこれまではバランスが取れていて、今まであまり大きな波を経験してこなかったというのは、我々としても恵まれていた部分だったと思います。
それでも今後、全体的にニーズが縮小傾向になったときのために商売の間口は広げておかないといけないということで、販路拡大などはより意識して取り組むようにしてきています。積極的に相談会や展示会に参加するといったことも昨年あたりから継続してやっています。
今は対外的、営業的な仕事は専務である息子に任せるようにもしています。息子はこの4月でちょうど帰ってきて3年になります。従来通りのお客さん対応だけでなく、同業者さんとの繋がりといった部分も意識してやっていまして、例えば我々と同じように蝶番を扱ってる会社さんですね。
関西の方にもそのような同業者がいるのですが、ちょっと関東の方と商売の考え方が違ったりして色々な学びがあります。我々が関西に行くだけではなくて向こうからこちらに来てくれたりといった繋がりもできてきています。そのような同業者であったりとか、一緒に仕事ができるような他業種の方との繋がりを今すごく意識してやっています。
実際、東京の同業者の方から「伊藤さんのところでこういう蝶番作れる?」って相談が来たことがあった時に、我々単独でやるなら新たな金型の投資が必要になる話だったんですが、それを大阪の方の業者さんに相談したら「同じの作ってる所があるから、そこの品物を提供できるよ」って言われまして。そんな形で、うちが実際に製品は作らずにお客さんが求める蝶番を提供するようなことができたんです。それが初めての例だったんですが、少しずつ今までと違う流れが作れ始めたのかなっていう感じですかね。
同じように、この近辺でも三島沼津の方から比べれば修善寺ってなかなか製造業者って少ないんで、良し悪しはあると思うんですが、昔ながらの「自分の社内で全部やろう」っていう考え方がこれまで商売のバリエーションが広がらなかった要因の一つでもあったのかなと思うようになってきまして。
なので我々の製造工程の中に付随する加工なんかについても今までお付き合いがなかったようなところに相談してみたりしています。そのような感じで自社でやれることだけではなくて、色々な仲間を集めてやれるような、そういう間口をちょっとずつ広げていくということを意識するようにしていますね。
地域に根付く新しい試み
地域との繋がりは何か工夫されているのでしょうか?
この地域で言うと旅館業さんなどであれば近隣から食材を仕入れたりとか、そういう繋がりがあると思うんですけど、うちの蝶番を作るという仕事ではそういうこともないので、これまでは地域貢献っていうのはあまり強くは考えていませんでしたね。ただ、やっぱり会社が回っているだけじゃダメだなという意識はありますし、もちろん社員さんも地域の人間なので、地域との繋がりも考えるようになってきています。
例えば蝶番を使って、修善寺に来た観光客の方が手に取って喜んでもらえるようなものを何か作れないかなと。これまでもおぼろげな考えはあったんですけど、そろそろ本当に具体的に何か進めていきたいなということで、蝶番の土産としてお守りを作っています。
扉と建物や、箱と蓋を繋ぐというのとはまた違った視点で、人と人との繋がりも蝶番で何か表現したいなっていうことをずっと思っていて、そこでネジ穴の部分をハートにしたら縁結びを表現できるかなと考えたんです。作り始めたのは4、5年前で、あまりこれを積極的に販売しようっていう形ではやってきていなかったんですが、最近では地域のイベントにも出店して販売もしていますね。
あとは大学生さんのサークルやゼミの合宿として工場見学に来てくれた方が申し込んでくれたりとか、取引先のお客さんからの依頼で展示会のノベルティとして作ったりとか。工場見学の受け入れをしていた日大国際学部の学生さんたちが社会人になって結婚した時に、結婚式や披露宴で記念品として配りたいんで作ってください、なんてお願いをされたこともありました。
普段我々が作っている蝶番っていうのは世の中のどこに使われているのか実はあまりよく分からなくて、大半のものがほとんど人目につかないんですね。これが縁結びのお土産などであれば自分たちが作ったものが実際にどこで売られていて、どういう人が手にするかということが分かるんで、社員さんにとっても自分たちの製品について意識してもらえるきっかけにならないかなと、それによって新しいやりがいを見つけてくれれば良いかなと思っています。
工場見学とはどのようなものでしょうか?
2009年頃だったと思うんですけど、私の知人が静岡県の着地型観光のツアーを企画して、工場見学とものづくり体験みたいなことをやってくれないかな、っていうふうにお願いされたのがスタートのきっかけでした。それ以前から蝶番というのは一般の方はなかなかイメージが浮かばないだろうなっていうのはあったんで、自分で携帯にストラップでぶら下げていたんですね。で、その知人と同席した時にたまたまそれを見て、「あ、これ面白いね」っていうところからそのような相談を受けたんです。
当時は工場に来る人なんて材料を持ってくる業者さんくらいで、お客さんが来ることも稀だったんです。なので、どういうふうにして工場見学なんかやるのか、皆目見当もつかなかったんですけど、まあとにかく何かできることがないかなってことで、まずは工場を見せるということを始めました。
あとは体験してもらうといっても、危険もあるのでプレス加工をやってもらう訳にはいかず、じゃあどうしようかって考えた時に、組み立てだったら機械を使わないでできるんじゃないかということで蝶番を組み立てる体験を工場見学と併せてやってみようってことで始めました。
その後なんとなく口コミで広がっていって。その知人の繋がりで学生さんたちがゼミ合宿をしたり、地元の伊豆総(伊豆総合高校)さんの生徒さんが授業の一環として来てくれたりとかですね。工場見学はホームページにも載せていたり、伊豆市の観光情報のページにも出したりしているんで、そういう所を見た方が伊豆に旅行に来た時にちょっと変わったアクティビティとして申し込んできてくれたりもしますね。
商工会さんの研修旅行などで、伊豆に来るんだけど研修の一環になりそうなアクティビティが必要だ、ということでホームページ等で調べて相談してきてくれる方もいますね。同じ伊豆でも伊豆高原とかの方へ行けば陶芸とか色んな体験型のアクティビティがありますけど、修善寺の近辺ってなかなかそういうものがないので。
今まではそんな工場見学の対応などは自分一人で全部やっていたんですけど、今後はそういうことも少しずつ社員さんに関わってもらえるようにと考えています。
一軸入魂で広げる繋がり
「一軸入魂」という言葉に込めた思いとは?
発案者は私の妻なんです。一球入魂とかあるじゃないですか。そんなところからもじって「軸」という言葉を入れてあるんです。蝶番って2つのヒンジピースが組み合わさる軸があるからこそ動くものであって、軸が抜けてしまうと落っこっちちゃうじゃないですか。それが蝶番の致命的な欠陥として一番に挙げられる芯棒抜け。なので、組み立てをするときに芯棒が抜けないように加工してあったりして、とにかく蝶番で一番大事なのはまず軸だよね、ということで。あとは品物一つ一つに作ってる人たちが色んな思いを込めている、っていうようなことをイメージして考えました。もちろん蝶番だけじゃなくて人間としても、軸を作ってしっかりしていかないと、という気持ちも込めています。
壁に掛けてある「一軸入魂」の書は先代社長の妻である私の母が書いたものなんです。書道が趣味で、一軸入魂の書と併せて蝶番のイラストも描いてもらいました。これは展示会で飾ったり、会社のホームページに載せているブログでもシンボル的に使ったりしています。
次の世代に向けて、どのようなことをお考えでしょうか?
私はとにかくこの商売を続けるにはどうしたらいいかってことを第一に考えています。父の時代からずっと続けてきてはいるんだけど、そのまま何も変えなければ続かない。世の中も変わってきているし、うちだけ変わってないっていう状態でどうすべきかってことを意識しています。
間口を広げて、多少の変化があっても存続していけるように。それで次の息子の世代にちゃんと引き継がせられるような会社にするのが、自分の役目かなとずっと思っています。
息子さんも専務として営業活動や新しいことに取組まれているのですね
(専務)大阪の方に行ってみたり、東京の方に行ってみたり、大体2週間に一回は東京の方に納品があるので、その時は外注さんに行っていろんな話をしています。
東京や大阪の町工場の特徴や気づいたことはありますか?
(専務)うちだと多少広い土地があるんで、機械を多く置いたりしてなんでも自分の所でできるんですけど、東京とか大阪ってみんな敷地が狭いから自分の所でできることって限られてくるんですよね。そういうこともあって、人の付き合いとか繋がりで皆さん仕事をしているんです。
(専務)我々も伊藤金属総業として作るものが全てじゃないと思うんです。うちを通して、そういった協力工場さんなど関係する人たちが熱心に仕事をしてくれれば嬉しいですし、仕事を繋いでいくというところで役に立てればいいかなと思っています。自社ではやらないものなんかも、こんなことできますよ、なんていうふうにお客さんには宣伝ができれば。
(専務)それで最終的にうちとお付き合いできて良かったなと思ってもらえれば、自分たちがやってきていることに間違いはなかったのかなと思えますし、そこを目指していきたいですね。
製造業とはいえ、ただ良いものを作るということだけが全てではないのですね
ええ、図面通りのものを納められるか、あるいは早い安い、っていうようなところが世の中から求められる部分ではあるんですが、じゃあその図面通りのものを納めることだけが商売なのかっていうと、やっぱりちょっと違う部分もあると思うんです。
色々なことをやって、皆さんとの繋がりを広げていくこと。色んなものを繋いでいるっていうところで、蝶番に引っ掛けているわけじゃないですけど、「繋ぐ」っていうことを大事にしています。
さっき息子が言ったように、「伊藤金属総業さんと仕事をしていて良かったな」と思っていただける、本当にそういうことに尽きるなと思います。それで同じ方向を向いて仕事ができる仲間を作っていける会社になりたいなと。今は百年企業を目指そうと思っているんです。もうあと20年ちょっと。まだ先代も生きてる可能性があるからね(笑)。
■ 会社・店舗案内
伊藤金属総業
〒410-2407 静岡県伊豆市柏久保139
https://choutsugai.jp/