今回は、西念寺の植田 誓子 (うえだ せいこ) さんにお話を伺いました。
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はじめに
今回は伊豆市、修善寺駅から少し南下した本立野地区の狩野川沿いに佇む西念寺(さいねんじ)さんを訪問してきました。本堂を建て替えるという一大事業を成し遂げられ、あわせてお寺のロゴマーク(紋)やホームページを新規に作成するなど、大々的なリニューアルを行われた西念寺さん。その様子や思いについて、本堂落成が行われたその日に副住職の植田誓子さんに伺いました。【前編】
西念寺の成り立ちと特徴
お寺の創建と歴史について教えて下さい。
私たちの手元にはハッキリとした資料が残っていなくて、「町の歴史」のような記録では”持越(もちこし)”という金山で栄えていたエリアに真宗の寺院として開創されたと伝わっています。この辺りには土肥金山や大仁金山などがありますが、同じように持越でも金が取れて、当時は町としてとても栄えていてお寺もいくつもあったみたいなんですね。
このお寺の本山は京都の東本願寺なんですけど、そこに残っている記録としては、本願寺の末寺として登録されたのが天正4年、1576年となっています。ですので、そこから数えて今年で446年になります。その時の住職を初代として今の住職、私の父なんですが、18代目になりますね。
その後、天正9年に現在の場所に移転したきたようです。ここは立野宿と言って下田街道の宿場町だった所なんです。移ってきた当初はちゃんとしたお堂があったわけではなくて、本堂が建ったのが江戸時代の5代目の住職の時です。そこから数えると、今回の基礎から完全に本堂を新築するというのは約330年ぶりになります。
西念寺さんの特徴や力を入れてきた所を教えてください。
私の父、現住職はずっと二足の草鞋で児童福祉施設の職員をしていたということもあって、お寺の子供会というものを34年前から始めています。その前の代の住職は、私の祖父なんですけれども、本堂で保育園を始めた人で、その後園舎を建てて認可保育園を運営していました。
そういうこともあって、すごく子供に縁のあるお寺というのが西念寺の特徴ですね。地域の子供たちが境内で遊ぶという姿も見られますし、私も子供達にはたくさんお寺に来て遊んでもらいたいと思っています。
今、父がやっている子供会は門徒さんのお宅の子供さんを対象にしている会なんですけど、昔はそれこそ20人30人と集まっていたんですが、今は本当に少子化で10人もいないんです。なので私が今考えているのは、その対象を門徒さんのお宅のお子さんに限らず地域の子供たちの放課後の活動にしてもらったりとか、子供会の対象を広げていきたいなというふうに思っています。
ご自身は子供の頃から後を継ぐという意思があったのでしょうか?
全然なかったですね。父からも跡を継ぎなさいとは言われなかったですし、逆にもう早くこんなところから、こんな田舎から飛び出したいという気持ちでいました。大学も仏教と全然関係ない所に行って。でも本当に不思議なもので、めぐり巡って戻ってきてしまいました。
大学も仏教とは関係なかったのですが、たまたま進学した先が京都というのもあって、全然実家とは違う所でお寺に関係する人たちとの出会いもあったんです。
一回離れて見るとお寺の魅力にあらためて気付くというか、ちょっとNPOの事に関わっていたこともあったんですが、お寺の存在そのものがNPOの元祖だよというような話を伺ったこともあり、確かにそうだなあと思ったんです。お寺でやれることとか、たくさんあるなというように捉え方が変わったのはその時が最初だったかもしれないですね。
跡を継ぐと決めたときには、やはりお寺がちゃんと続いていくということで門徒さんもすごく喜んでくださいました。
地域の環境の変化への対応
お寺を取り巻く環境として、ここ10年、20年で変わってきていることはありますか?
大学進学を機に実家を離れて、頻繁に帰省していましたけれども、寺での生活を再スタートしたのが一年半前。お寺を取り巻く環境の変化で一番私が感じたのが、この地域の人口がどんどん減って、子供が減って、これ過疎の町になってる!っていう衝撃がすごく大きかったんです。
門徒さんも高齢の一人暮らしの方が多いですし、お子さんがいらっしゃってもこのエリアだと関東の方に出て行って戻ってこないという方がすごく多いですね。全国的にも、墓じまいがどんどん増えてるんですが、やはり後を継ぐ人、若い人がいないという地域の課題がそのままお寺を取り巻く環境の変化になっているなというのを感じます。
今後どのような取り組みが必要だとお考えでしょうか?
お寺や葬儀、お墓というものに対する考えは世代間の違いや変化も大きいと思いますね。先進的な取り組みをしているお寺では、若い世代に向けた発信を積極的に行っていたり、そういうところは田舎でも新しい門徒さんが増えているところもあります。お寺自身が変わっていく必要性を感じています。お墓も、樹木葬や集合墓など、それぞれの事情や要望に合わせた選択肢を用意するところも増えてきました。お寺といわゆる檀家・門徒の関係性というのも、これまでの伝統的なかたちだけではなく、ゆるやかで多様な在り方が求められていると感じてます。
これまでお寺にあまり縁のなかった方々にとっては、こちらが思う以上にお寺って「敷居が高い」とか「付き合いがめんどう」とか「自分には関係がない」と思われていると思うので、もっと身近に感じてもらえるように寺を開いて、こちらからはたらきかけていくことが大事なのかなと。そんな取り組みをしていきたいですね。
地元に戻ってきて、人が減っただけでなく、同じ地域に住んでいる人同士の関係性が希薄になっていることも感じます。地域にお寺を開いていくといっても、その地域は今いったいどうなんだと。田舎で仕事がないとかそういうことではなく、なんとなく「住みにくい」と思っている人が多いということがけっこう深刻だと思っていて。住民の一人としても今大きな関心を持っていますし、寺があらたな地域の居場所として、ゆるやかで日常的な、心地よいつながりを生み出す場になっていけたらなと。
自分に一体何ができるのかとか、どんな風にしていかなきゃいけないのかっていう事をすごく考えているんですけど、あまり大々的なことを目指すよりも、自分が好きなことから、それを使って人と繋がっていったり、お寺を活用していったり、そういう小さなことから始めていくのがいいのかな、というふうに思っています。
(後編に続く)
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西念寺
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