今回は、伊豆市在住の南馬 久志さんにお話を伺いました。
■ プロフィール
南馬 久志 (なんば ひさし) さん
かぜつち模様染工舎 代表
神戸西区出身。 「かぜつち」は漢字で書くと「風土(ふうど)」。 風土とはその土地の気候・地質・景観などの環境のことです。 私たちは伊豆という土地に根を張り土に触れ「染」を生業とし、 この土地でものづくりをしていきます。
益久染織研究所の生地との出会いはどのようなものでしたか?
きっかけは、資料室にあったたくさんの生地見本の中で、とても惹かれる生地があり、その製造元を調べた結果、益久染研究所で作られた生地だったんです。
益久染織研究所では、一度も農薬や化学肥料を使ったことが無い大地で、すべて手作業で綿を育て、糸を紡ぎ、生地を織り、生活雑貨を製造していて、とても興味がわいたんです。
そこでは、どの様なことを学びましたか
ある時、前田雨城先生の「色の文化史」という授業を研究所内でおこなっており、僕はカメラを回す役をさせて頂きながらお話を伺い、日本で1300年間、綿々と続けられてきた染色の考え方は、化学染料とは全く違うアプローチで行われていたことを知りました。
化学染料は、再現性のために、データ化され、測れば同じ色彩を出すことができます。古代から行われた植物を用いた染色方法は、美のためというより祈りのためにあったと聞きました。 外敵や病気から身を守るために、祈りを込めて染付けした色彩を身に付けていたみたいです。現代の人々とは全く違う概念だったと聞いています。草木染は金属を使い色を定着させることはできますが、それもここ100年くらいの話です。
古代の染めとはどのようなものですか?藍染も含まれるんですか?
藍染もそうですし、茜(アカネ)染めもそうです。効能は血行促進、保湿、保温作用、身体の活性化、浄血などの効果があると言われているため、昔から襦袢や褌に赤を使う事が多かったそうです。
益久染研究所で企画をしながら染の研究をしているときに、京都の恵文社で自分の個展を開きました。
この個展を開いた理由ですが、その頃から貸し農園で藍を育たり、中国の山東省へ手つむぎのおばあちゃんに仕事で会いに行かせて頂いたり生産背景に触れる機会が増えていました。農家の松本さんが「昔に比べて大地が弱くなっている」と感覚を語ってくれたことが衝撃で、自然と人の関係に興味が生まれました。なので個展の名前は「自然と人のテキスタイル展」にしました。同時に20代で経験した「染め」の世界はあまりにも広大で、自分では明確に捉えれず漠然としていた自身に対して気持ちが悪くなっていたのを覚えています。
そういった活動をしているころ、年に数回行われていた、天然染料顔料会議に出席する機会がありました。そこで、インドネシア国立芸術大学の先生である茂美さんから、森本喜久男さんに会いに行ったほうが良いと言われました。
前田雨城(まえだ うじょう)
高倉家染頭33代目
古代染色研究家・全国植物染織研究会顧問、法隆寺献納宝物、正倉院宝物の調査、古代染め復元
主な著書
1.『ものと人間の文化史 38 色 染と色彩』、(1980)、法政大学出版局
2.『色 -染と色彩-』 法政大学出版局
森本さんとはどのような方ですか?
森本さんは、カンボジア伝統の織物クメール絹絣を復活させた方です。
紛争によって、各地にちりじりになってしまった職人たちを、内戦のさなか訪問し、もう一度、伝統の織物を作るよう説得して回ったそうです。
そして、カンボジアのシェムリアップから車で約1時間半ほどの村に職人たちを集め、クメール絹絣を復活させた結果、村の産業にしました。
そして、2017年、妻と一緒に森本さんに会いに行ったんです。