2021年12月12日

町と町を繋ぐ人力車 -「伊豆松崎組」島川 誠さん

伊豆に住み営む人々のストーリーを紹介するシリーズ企画。
今回は、在住の島川 誠さんにお話を伺いました。
■ プロフィール
島川 誠 (しまかわ まこと) さん
人力車松崎組 車夫
東京都出身。

伊豆で唯一の人力車「人力車松崎組」は、車夫(しゃふ)の島川誠さんが修善寺と松崎町で人力車を走らせています。島川さんは町と町のつなぎ役を目指しています。

長い間、松崎町と修善寺には定期的に人力車の運行を担う車夫がいませんでした。しかし、2018年から東京出身の島川さんは伊豆の町に溶け込んで定期的な人力車の運行を復活させることとなります。また、伊豆の町は、移住者を受け入れる温和な風土による後押しもあったようです。

車夫の島川さんにお話を伺う機会を得たので紹介します。

人力車の歴史と伊豆に復活した人力車

人力車とは、明治・大正・昭和初期に普及した人力で人を運ぶ乗り物です。当時は、人力車が日本の代表的な公共輸送機関でした。19世紀末には20万台を越す人力車が日本にあったと言われます。籠や馬に代わり全国に普及した人力車でしたが、鉄道や自動車の発達により衰退していきました。

ところが現代では人力車は、観光地での高貴な気分になるための遊びとして注目を浴びています。車夫(人力車の引き手)は、ただ車を走らせるだけでなく、その地域の知識とお客さんを楽しめるサービス精神が豊富です。ガイドブックに載っていない穴場のスポットも案内します。

伊豆半島南部に位置する松崎町では、1994年から2012年まで「人力車伊豆松崎組(町役場職員有志)」による観光案内が定期的に行われていました。定期的な運行を担う車夫がいませんでしたが、2018年に島川さんがこの町の移住を決めて、同組で使用していた人力車・法被を受け継ぎ、約7年ぶりに人力車による定期運行を復活させました。

さらに、2019年9月、秋の紅葉シーズンとなる修善寺でも人力車を復活させます。松崎町でも修善寺でもひた向きに走り続ける島川さんの姿が地域の人々から支援を受けることとなりました。人力車は町の観光には欠かせない存在となりつつあります。

竹林の小径を走る島崎さん(撮影者:編集長)

秋を満喫できる修善寺編

2020年11月18日に修善寺温泉街を訪れました。この年は暖冬傾向で、修善寺の紅葉シーズンは例年よりも1週間ほど遅れていました。車夫の島川さんは、修善寺に注ぐ桂川にかかる虎渓橋で観光客を迎えていました。

人力車に乗車すると、紅葉の修善寺を起点に渡月橋を渡って夏目漱石の「生きて仰ぐ 空の高さ 赤トンボ」の石碑の前を通ります。歴史に触れながら、さらに、人力車は竹林の小径へと進みます。竹林の小径を抜けた虎渓の橋が撮影ポイント。

島川さんのガイドに満足して下車しました。営業時間は10時~16時の不定休で行っています。電話予約しておくと安心です。連絡先はこちら⇒伊豆市観光観光情報サイト

虎渓の橋が撮影ポイント(撮影者:車夫・島川さん)

春の桜とワーケションに最適な松崎町編

出発

2020年12月中旬、松崎町にある公共の宿 伊豆まつざき荘で島川さんと待ち合わせました。まつざき荘の玄関に島川さんの人力車が展示されています。旅館にとって高貴な演出となり、島川さんにとっても無料で保管できる駐車場となります。両者の絆で成立した観光モデルです。

公共の宿 伊豆まつざき荘の玄関(撮影者:ライター)

松崎町の車窓から

伊豆の西に位置する松崎町では海から直接吹き込む西風が強く吹くため、明治時代は火災が多い環境でした。このため、防火性、保温性、保湿性に優れた「なまこ壁」という外壁の工法が採用されていました。現在、伊豆では松崎町と下田市などの観光資源として保存されています。松崎町には今も190棟余り残っており、昔ながらの趣を留めています。

松崎町は「なまこ壁」の観光資源と海から川から山への風景がゆっくりと流れる町並みが特徴です。写真、真ん中のボタンを左右に移動すると背景の確認ができます。背景の移り変わりを体験ください。

人力車の車窓からの松崎町(撮影者:ライター)

食べ歩きスポット

さつまあげ「 はやま」のさつまげや浅井ミートの川のりコロッケがお勧めです。食べ歩きスポットも島川さんが案内してくれます。

今回、さつまあげ「はやま」に訪れて、端山智充さんがきさくに答えてくれました。50年前に先代の父親が創業しました。「毎朝、その日に売り切る分だけを手作業しています。なかなか買えないとの声もいただきますが、作り置きはしません」と端山さん。量より質を追求する姿勢がファンを惹きつけると思いました。

現在、さつまあげは店舗販売のほか、通信販売、地元のスーパーマーケットで購入することができます。店舗のさつまあげは昼には完売してしまいます。揚げたてのさつまあげは午前中に購入することをお勧めしたいです。

さつまあげ「はやま」の現社長 端山智充さん(撮影者:ライター)

 

なまこ通りでワーケーション

なまこ通りは、ワーケーション※にもお勧めです。この通りにある古民家「伊豆文邸」は、一般に無料開放されているスペースです。私も利用しましたが、和の雰囲気の中で心が安らいで仕事ができました。休憩には桜餅で糖分チャージを行いました。松崎町はスイーツも魅力的です。

なんと、松崎町は桜餅を包む桜葉の生産量日本一で全国の7割を占めます。さらに隣の南伊豆町と併せるとシェアはほぼ100%です。町内には原料となるオオシマザクラが広く栽培されています。葉は5月上旬から採取され、通常「三十石樽」という大きな樽で塩漬けされるそうです。この桜葉を生かした桜餅は町内に3種類あると言わています。楽しみが3倍ですね。

※ワーケーション(英語:Workation)とは、「ワーク」(労働)と「バケーション」(休暇)を組み合わせた造語(かばん語)で、観光地やリゾート地でテレワーク(リモートワーク)を活用しながら、働きながら休暇をとる過ごし方。在宅勤務やレンタルオフィスでのテレワークとは区別されています。

島川さんが目指す「町と町を繋ぐ人力車」

島川さんは、観光客が修善寺を起点に下田、松崎へと回遊できる観光プランを目指しています。観光客が行く先々の人力車で楽しめることです。「町と町を繋ぎたい」という信念をお持ちでした。松崎、修善寺の復活に続き、下田にも人力車が走る姿を期待したいです。

編集後記

物理学者 アルベルト・アインシュタイン博士が残した、言葉がある。

「もしハチが地球上からいなくなると、人間は4年以上は生きることはできない。ハチがいなくなると受粉ができなくなり、そして植物がなくなり、そして人間がいなくなる」

観光地には、町と観光客に情報を伝える人材が必要だと感じます。人力車は、町に溶け込み、町と観光客を繋げるハチのようでした。

その後、島川さんからメールが届きました。

「2021年4月に、移住者専門の企業体験が出来るゲストハウス、移住者の家TORUSをオープンします。ここで、伊豆が好きな方々と繋がり、みんなで伊豆を盛り上げていきたいです。」

移住者の島川さんだからこそできる伊豆の盛り上げ方だと思いました。楽しみですね。

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