今回は、mother earthの平山 早苗 (ひらやま さなえ) さんにお話を伺いました。
和菓子をいただく際の楊枝としても使われている「黒文字」。実は、香りがとてもよくアロマテラピーなどで楽しまれています。伊豆天城の森で採取した黒文字を使って、手作りで和精油を製造・販売しているmother earthの代表・平山 早苗さんに、伊豆の黒文字の魅力やこだわりの製造方法、地域への想いなどをお聞きしました。
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伊豆の黒文字との偶然の出会い
「黒文字」とはどういうものでしょうか?
黒文字は日本に古くから自生する木で、香りがとても良く、かつては江戸幕府に香木として献上されていました。海外へも香水や化粧品などに使う天然香料として輸出されていたそうです。
黒文字の和精油を製造・販売されていますが、きっかけは?
もともとアロマセラピストで、和精油に関心がありました。精油は西洋のものが中心で日本のものは少ないんです。8年前にたまたま飛騨高山の和精油のお店で開催していたワークショップに勉強に行ったら、先生が「僕は伊豆で黒文字を勉強したよ」と話していて。伊豆に戻ってお世話になっている方にその話をしたら、「昔、近くに香水場という場所があって、黒文字を製造してたぞ」と言われてビックリしました。外ばかりに勉強に行っていたのに、実は地元にあったなんて。その後は夢中でしたね。あちこちに話を聞きに行ったり、古い文献を読んだり。
実は、伊豆は、明治20年に日本で初めて水蒸気蒸留法により黒文字油の搾油に成功した場所で、日本のアロマのパイオニアだったんです。最盛期には伊豆半島に20か所以上の搾油施設があったようです。その後、施設は次々と閉鎖され産業も廃れてしまいましたが、なんとかまだ伊豆で黒文字を作っているご家族を探し出しました。最初はそこで搾油された精油を販売していましたが、次第に自分たちで作りたくなって始めたんです。
10kgの枝葉から20mlしか取れない
伊豆の黒文字の特徴を教えてください
本州の黒文字は「リナロール」という、ラベンダーなどにも入っているリラックス効果のある成分が多いんですけど、伊豆の黒文字は「1.8シネオール」という、メントールみたいなスーッとする香りが強くて、殺菌・抗菌効果も高いです。柑橘類に含まれている成分も多いので、さわやかですね。ワインと一緒で、香りもその土地ごとに違うんです。
黒文字の精油はとても貴重なようですが、どのくらい取れますか?
黒文字の精油は、ラベンダーなどのハーブ系と比べて取れる量が少なくて、総量に対して0.2%取れれば良いほうです。黒文字の枝葉を10kg取っても作れる精油は20mlぐらい。環境を守りつつ、地域の資源を使って産業に繋げられればと思っているので、採取する黒文字の量も制限しています。
蒸留する釜も手作り
すべて手作りにこだわる
精油はどのように作るのでしょうか?
まず、伊豆の天城の山に自生している黒文字を採りに行きます。森の環境を守りたいので、枯れた枝を綺麗にしたりなど手入れをしながら作業します。採取したら山を降りて、手作業で枝と葉に分けて、2時間ぐらいでザクザクと細かくします。機械を使えば15分ぐらいのようですけど(笑)。その後、薪でお湯を沸かし、釜で3時間ぐらい蒸留すると完成です。
作業は何人かでやっていますが、1日がかりですね。その後1か月ぐらい寝かせて香りを落ち着かせてからアロマのサロンなどに販売します。個人のお客様向けにインターネットでも購入できるようにしています。量が作れないので、ご注文いただいてもお断りせざるを得ないこともあって。
実は、蒸留する釜も手作りです。市販の釜もありますが、値段がとても高いのと、ボイラーで加熱するものばかりで。私は、どうしても薪の火にこだわりたかったんです。伊豆では、昔、薪を使って精油を製造していましたし、何といっても廃材を活用できるので、資源が無駄になりません。薪が使える釜を、溶接などはプロの方にお任せして、自分たちで作りました。
黒文字が取れる時期は決まっていますか?
黒文字を採取できるのは6月~10月ぐらいです。夏の7月~8月が最盛期なのですが、山にマダニがいるので、肌を露出しないように完全防備の服装で採取します。サウナスーツを着ている感じで、汗だくです。やせたい方には良いかも(笑)。
殺菌効果が高く、日常生活でも有用
早苗さんの黒文字の楽しみ方は?
アロマディフューザーなどを使うと香りが楽しめますね。道具がなくてもお湯を入れたマグカップに1滴垂らすだけで蒸気と一緒に香りがお部屋に広がります。他には、殺菌、抗菌作業が強い精油なので、お出かけの際、ティッシュやハンカチに1滴垂らしてバッグに忍ばせておくと、良い香りがするだけでなく、インフルエンザなどの予防にも良いですよ。私は重曹に混ぜて歯磨きやうがいに使っていますから。
精油を作る際にできるフローラルウォーターというものも販売していて、お部屋の消臭などにシュッシュッっと使えます。黒文字を蒸留する際に、上に浮いた部分が精油で、下に溜まるのがフローラルウォーターです。香りは精油ほどではないですが、同じように殺菌、抗菌の効果が高いので、日常生活で使いやすいですよ。
黒文字茶も良い香りがしておススメですね。黒文字の枝と葉を3週間ぐらい天日干しして、手作業で細かくして作るんですけど、こちらもあまり量は作れなくて。
黒文字サミットや伊豆のコミュニティづくりをしたい
早苗さんが今後、取り組みたいことを教えてください
伊豆の杉やヒノキなどを使って、和精油を作ってみたいです。黒文字が本州のものと香りが異なるように、杉やヒノキも香りが違うんじゃないかと。あと、黒文字の精油は東北から九州にかけてあちこちで作っているので、「黒文字サミット」みたいな集まりをしたいですね。「伊豆の黒文字の香りが一番!」など自慢したいです(笑)。
伊豆のコミュニティづくりにも取り組みたいです。伊豆には子育て中だった20年ぐらい前に移住してきて、誰も知らない土地でしたが、地域の方が助けて下さいました。なので、昔からコミュニティづくりがずっと自分のテーマです。黒文字の精油は中伊豆にある古民家で作っていて、目の前に田んぼがあるのですが、耕作放棄地になりそうなところを、仲間がお米や大豆作りをしてくれています。もちろん私も手伝わされます(笑)。地域の自然の恵みでみんなが豊かに暮らせるようになるのが私の願いです。
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