クロコダイルの一日は日光浴から始まる。夜間は水中にとどまり、日の出とともに自ら出て堤に横たわり日光浴を行う。体温が上昇すると日陰か水中に移り、極端な体温の変化を避ける。夜は岸辺近くの浅い水中に潜み、眼と吻端(ふんたん)のほか鼻孔のみ水面から出して、水飲場にやってくるアンテロープなどの獲物を待ち受ける。強力なあごと鋭い歯で獲物にかみついた後、四肢をふんばって獲物を水中に引きずりこみ窒息させる。大きな獲物は口でくわえたまま、体を回転させる「ワニのツイスト」によってねじり切って食べる。
「平凡社世界大百科事典」より「クロコダイル」
柴田元幸先生のエッセイ集「死んでいるかしら」の中に掲載されている「クロコダイルの一日は」では、日光浴から一日を開始するクロコダイルに羨望のまなざしをむける一文から始まる。
柴田先生の朝は野菜ジュースのためのニンジンの泥落としから始まる。
クロコダイルの朝のはじまりに比べたら見劣りがするが、それでも以前の朝の日課に比べればだいぶましになったそうだ。
以前は、大小1人ずつの男のペアが部屋にやってきて、異次元の通路となっていた先生の腹を切ってそこにたまった新聞とかトマト缶とかその他いろいろな物を取り出す、というところから一日が始まっていた。
大小1人ずつの男のうち、小男の方が毎朝、先生の腹を切った。
この小男、刃物さばきが天才的に上手く、毎朝、先生の腹に15cmばかり横に切れ目を入れるのだが、痛くもかゆくもない、とまではいかないが、極限まで痛みを抑えることができた。しかも、その切り口は別世界の物事を取り出した後はすうっとくっつき、5分後には傷跡も残さず消えた。
そういうことで、毎朝15cm腹を切られている割には、その天才的な指先を持った小男のおかげで大した苦痛もなく、面倒だけを受け流して、その奇妙な日課に付き合い続けたわけだが、ある時、その小男が神の手をワニに噛まれてしまった。
そう、その神の手を噛んだワニこそ、「伊豆のバナナワニ園のワニ」なのである。
ところがある日、二人の男が現れなかった。その次の日も、そのまた次の日も。日曜祭日はむろん、盆にも正月にもかならず来ていたのに、おかしいなあ、と想いながら何日か経ったある日、大きい男が一人で現れた。そして彼が言うには、実は小さい方の男が、伊豆のバナナワニ園に行って(僕は最初「バナナは二円」かと思って何のことかさっぱりわからなかった)ワニにちょっかいを出して手をかまれてしまい、ナイフがしばらく使えなくなってしまった。申し訳ないが彼の手が回復するまで待ってほしい、という話だった。
柴田元幸 死んでいるかしら
夏休みが終わりかけたある日、新幹線でこの本を読み、バナナワニ園に行こうと思い立った。子供が絵日記がどうのこうの言っていたし、私もクロコダイルとアリゲーターの違いを観察してみたかったし、その違いを誇らしげに子供に教えたかったからだ。(※このエッセイにはクロコダイルとアリゲーターの違いも記述されています。もちろん生物学的にではありませんが)
ということで、熱川バナナワニ園。
伊豆急行線「伊豆熱川駅」から徒歩 1 分とアクセスも◎
もはやワニです。
クロコダイルとアリゲーターとかではなく、ワニです。違いは分かりません。
クロコダイルとアリゲーター問題に一石を投じるガビアル科…。
もはやカオス…。
そして、もちろんバナナもたわわです。
温泉です。
この熱で熱帯植物を育てているのです。
1人用のこたつくらいあるゾウガメです。
餌やり体験ができます。
バナナワニ園で収穫されたバナナとパパイヤから作られたバナナビールとパパイヤビールです。
ほのかにバナナやパパイヤが香る南国の風を感じるビールです。
日本の南国、ここにありって感じです。
地元の醸造所「反射炉ビア」で製造されていて、反射炉ビアさんのホームページから購入できます。
クロコダイル=アリゲーター問題やクラフトビールやゾウガメに興味のある方、そして柴田元幸先生のファンの方はぜひ、伊豆のバナナワニ園へ行ってみてください。
安全対策はばっちりなので、ナイフ使いの小男のように「ワニのツイスト」をくらう心配はありません。
朝、日光浴しているワニがクロコダイルです。